銀盤の国のお姫様
 困った顔をして、うさぎが出てきたところを見つめる。

 あれ、誰も出てこない。
 まだ、初音や陽一らが出てきてないのに。


 もしかして、自分を待っているかもしれない。
 そう気づいて、滑り出した。

「まあ。」

 突然、子供たちの集団から抜け出して、客の目線を独り占めしてしまう程美しい女の子が滑り出したことに、客は皆驚いている。
 驚いたころには、もう、客の反応なんて気にしていなかった。

 当時の華音有にはまだできるようになったばかりで、一発で成功するかわからない、あのジャンプをやる。

 そう決めた彼女は、氷に緊張をしみこませるように滑る。 

 リンクを一周、二周して。

 前向きに滑って、左向きにターンして後ろ向きに。
 左足のエッジを内側に倒し、右足のつま先をついた。

 小学四年生の女の子のジャンプにしては、高く舞った。

 そのまま、左回りに回って、一二三、右足で着氷。


「わーーー!」

 完璧なトリプルフリップに客は歓声を上げ、大きな拍手を送る。

 華音有本人も、思わずランディング姿勢のまま、ガッツポーズする。

 新人発掘合宿が終わった後にできるようになったトリプルフリップ。
 ただ、この当時の練習での成功率は三十パーセントほどだった。

 それなのに、成功して、プレッシャーがかかる場面で決まった。
 うれしくてうれしくて。

   
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