彼の手
彼の手
「──しばらくお待ち下さいね」

女性美容師さんは、そう言い残していなくなった。

そして数分後、あたしのカット担当の木崎航平さんが現れた。


「こんにちは、詩織ちゃん」

「こんにちは」

「今日はカットとカラーだったよね?」

「はい。ショートカットにして茶髪にしたいんです」

「この髪バッサリ切っていいの?」

「お願いします」


木崎さんは注文通りに髪の毛を切っていく。


「詩織ちゃん、ショートにするの久しぶりじゃない?」

「そうですね。二年振りぐらいだと思います」

「いつもは前髪と毛先だけだもんね」

「もう伸ばしてる意味がないんで、切ることにしたんですよ」


あたしは言葉を続けていた。


「長い黒髪が好きって言ってた彼氏に振られたんです」

「そうだったんだ」

「だから伸ばしてる意味がなくなったんです」
< 1 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop