彼の手
失恋したのはつい最近のことだった。

『仕事に集中したい』──そう言って、あたしは振られてしまった。

でもそんなの建て前。

少し前くらいから電話をしてもメールしても返答がなかった。

本音は他に好きな人が出来たんだと思う。


「──オレも昔たくさん失恋したな」

「どんな人とつき合ってたんですか?」

「別に普通の子だったよ」

「美容師さんって、オシャレだしトークうまいしでモテそうですよね?」

「そんなことないよ。その証拠にオレは30になってもフリーだよ」

「互いにいい出会いがあるといいですね」


こんな会話をしている間も、髪は切られていく。

床にはたくさんの黒髪が散らばっていた。



それから数時間後──

あたしは希望通り、茶髪にショートカットになった。
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