彼の手
「詩織ちゃん、これサービスするよ」
会計を済ませた後、木崎さんからシャンプーとトリートメントを紙袋に入れて渡された。
「柑橘系のいい香りするんだよ。それにリラックス効果もあるんだって」
「ありがとうございます。使わせてもらいますね」
「髪型もいい感じに仕上がってるし、このシャンプー使えば、いい男が寄ってくるよ」
「だといいんですけどね」
「大丈夫だよ。詩織ちゃん可愛いんだから、自信持って」
「……っ」
ヤバイ。何だか泣きそう。
あたしは「また次回もよろしくお願いします」と言い残して、美容院を出て行く。
失恋して相当心が弱ってる。
木崎さんは、あたしを励ます為に「可愛い」と言ってくれたのに。
深い意味なんてないのに。
だけど、涙が出るほど嬉しかった。