君に触れたくて
君に触れたくて
「何度言えばわかるんだ!」
「すみません!」
俺のデスクの前で、何度も頭を下げる彼女。
もはや、日常化しているこの光景を、気に止める者は、一人もいない。
ただ一人、彼氏の三浦を除いては。
「部長、西山に指示したのは俺です!だから、彼女は悪くありません!」
三浦がデスクから飛んでくると、すみませんでした!と、頭を下げた。
またか。
社内恋愛を禁止はしていないが、仕事に私情を持ち込むなと警告した筈なんだが。
これでは、彼女の為にならないだろ?
俺は、いつもの様に溜め息を漏らすと、頭を下げる二人に向かって言った。
「もういいから、戻れ。ミスはこの部署全体の信頼にも繋がる、しっかりしろよ」
「はい……本当にすみませんでした」
「はい……本当にすみませんでした」
デスクに戻るなり、早速打ち合わせをする二人。三浦が、励ますように耳元で何かを呟くと、彼女は一瞬で笑顔になった。
そんな、二人を見る度に、俺は胸が締め付けられる気持ちになる。
まだ、新人だった彼女の指導役に、三浦を付けたのは、この俺自身だ。
文句なんて、言えやしない。
< 1 / 6 >