君に触れたくて
君に触れたくて


「何度言えばわかるんだ!」

「すみません!」

俺のデスクの前で、何度も頭を下げる彼女。
もはや、日常化しているこの光景を、気に止める者は、一人もいない。

ただ一人、彼氏の三浦を除いては。


「部長、西山に指示したのは俺です!だから、彼女は悪くありません!」

三浦がデスクから飛んでくると、すみませんでした!と、頭を下げた。

またか。
社内恋愛を禁止はしていないが、仕事に私情を持ち込むなと警告した筈なんだが。

これでは、彼女の為にならないだろ?

俺は、いつもの様に溜め息を漏らすと、頭を下げる二人に向かって言った。

「もういいから、戻れ。ミスはこの部署全体の信頼にも繋がる、しっかりしろよ」

「はい……本当にすみませんでした」
「はい……本当にすみませんでした」

デスクに戻るなり、早速打ち合わせをする二人。三浦が、励ますように耳元で何かを呟くと、彼女は一瞬で笑顔になった。

そんな、二人を見る度に、俺は胸が締め付けられる気持ちになる。

まだ、新人だった彼女の指導役に、三浦を付けたのは、この俺自身だ。

文句なんて、言えやしない。






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