【貴方と本当のキスがしたい。】(*ラブコスメ参加作品)
その日から私は
藍原さんと会う事をやめた。
何度も誘われたけど
『就職活動に忙しいので…。』
と、適当な理由を言って断っていた。
『藍原専務が奥さんと
ロビーでキスしてたのを
目撃してる社員もいるらしい。
…万が一訴えられたら
美紅は完全に不利な状況になる。
取り返しがつかなくなる前に
…専務とはもう関わるな。』
兄は電話でこうも言っていたから
本当は会いたくて堪らず
キスされたくて堪らなかったけど
訴えられるのは怖いから
私は兄の忠告に従う事にした。
しかし藍原専務は、私の家に
『君の唇に似合うと思って送るよ。
また会えるのを楽しみにしてる。』
と、直筆のメッセージカードと共に
グロスやルージュを
度々郵送で送ってくるようになった。
どう言うつもりなんだろう…。
既婚者が私に郵送してまで…。
こんな事されたら
私はますます好きになってしまうのに。
諦められなくなってしまうのに。
兄には内緒で
お礼のメールだけは送信していた。
そして、キャップを開けて
そっと唇に塗ってみた。
甘酸っぱいラズベリーの香りがして
たちまち唇が潤って輝いた。