【貴方と本当のキスがしたい。】(*ラブコスメ参加作品)


「…明日は10:30から打ち合わせで
14:00からはTF商事の……。」

定時近くになると

いつものように私は手帳を開き

目の前のデスクに座る藍原専務に

翌日の主なスケジュールを

簡単に報告する。

「…それで?」

「…その後は?」

彼は私が入れた

微糖のブラックコーヒーを啜りながら

「…うん。」

「…ああ。」

と、時折私の顔をチラチラ見て

適当に相槌をうつ。

彼の視線が合ってしまう事に

いまだに慣れない私は

手帳と彼の唇を見ながら話を進める。


…素敵だな。

専務の形の良い薄い唇と

時々綻ぶ口元や

口角をあげる仕草を見るのが

毎日の私の秘かな日課であり

秘かな楽しみだから…。


だって、藍原専務は

好きになってはいけない人…。

叶わない恋をしているのだから

『これは憧れなんだ。』

『恋と引き換えに
この人の秘書と言うご褒美を貰った。』

そう自身に言い聞かせている代わりに

彼の唇を見る事くらいは

バチが当たらないでしょ?

切ない想いに蓋をしながら

今日も私はこの人の秘書をしている。





< 2 / 44 >

この作品をシェア

pagetop