【貴方と本当のキスがしたい。】(*ラブコスメ参加作品)
藍原専務と初めて会ったのは2年前。
私が大学4年生、22歳の秋の日の事。
就職採用試験を兼ねて
5歳年上の兄、彼方(かなた)が
一人暮らしをしているマンションに
3泊していた私は
3日目の土曜日に
兄と観光へ出掛ける予定だった。
しかし、当日になって
緊急の用件で休日出勤になった兄が
『悪いが、適当に出掛けてくれ。』
そう言い残して家を出た2時間後
私の携帯に電話をかけてきた。
『まだ家にいるなら
玄関に忘れた水色の封筒を
会社まで届けに来て欲しい。』と。
当時、兄は今の私が勤めるIHRAの
営業課主任(現在は課長)で
忙しさのあまり
彼女をつくる暇がないほどだった。
仕方がないなと私は身支度をして
先日、友人と一緒に買った
ピンクのルージュと
チェリーの香りのグロスをつけた。
ほんのり甘い香りが鼻を掠め
艶々のふっくらした唇になる
手放せないお気に入りのアイテム。
鏡を見てニッコリ微笑んだ私は
バッグと封筒を持つと
マンションを出て駅へと向かった。