淋しいお月様
「どんなひとなの? その、タクミさん」

私の言葉に、クマさんとユアさんの目が私に向いた。

「え? 知らないの? タクミ」

「知らない」

するとユアさんは、財布から大事そうにチケットらしきものを見せてくれた。

そこにはツアー日時と会場の名前、そして“多久美省吾”と書いてあった。

「あ、タクミって苗字なんだ」

「ほんとに知らないんだね。まあ、ここ最近売れ出したんだけどさ。私はインディーズの頃から好きなんだ」

「CDTVとかでも、ランキングに出てるよ。知らないか……」

「うん。私、あんまりテレビとか見ないんだよね。ごめん」

「いいよ、いいよ。これで布教活動ができた。ファンひとり確保~」

ユアさんは上機嫌で言う。

本当に好きなんだな。

綺麗なユアさんを虜にしてしまうタクミを、一目見てみよう、と私も興味を持ち出した。

私は彼女からチケットを受け取る。

これが、また新たな物語りの始まりとは知らずに。
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