淋しいお月様
「今をときめくミュージシャンが、変装もしないで歩いて大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。そんなのいちいち気にしてたら、生活できないよ。まあ、あそこのコンビニの店員さんには知られてるみたいだけどね」

「そうなんだ」

「前に、サイン求められた」

「うわ~。うざっ」

「そんなことないよ。嬉しいよ」

「そんなものなの?」

私だったら、プライベートで声をかけられたくないけどな。

そっとしておいて欲しいけど。

そんなことを思いながら私たちはコンビニへと辿り着き、セイゴさんはカゴをとって「何でも好きなもの入れていいから」と言った。

「え、いいよ、いいよ。自分の分ぐらい、自分で出すよ」

「いいから、甘えなさい。ひとり暮らしでお金もないだろ」

「……すみません」

私は小さくなった。その通り、キツキツの生活を送っていたからだ。
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