淋しいお月様
「すごいね」

私の言葉に彼は首を横に振った。

「ただ、デビューの話はボーカルの奴にだけ来たの。バンド抜けて、ソロでビューしないかって」

「え、何で」

「演奏がそこそこできる連中はゴマンといる。俺たちのバンドはアマチュアに毛が生えたようなもんだったんだ。でも、ボーカルの奴は違った。歌の上手さは突出してた」

「ふうん」

「で、ボーカルがいなくなって、バンドは解散――ってわけ」

「それで、セイゴさんはどうしたの?」

私は野菜スティックのにんじんを齧った。

甘さが口の中に広がる。

「俺は音楽を続けていきたかったから、キーボードで弾き語りやってたんだ。それで、コンテストに応募して、見事優勝」

「すごいじゃん」

「でも、インディーズからの出発だったよ。日の目を見ない日が続いた。それで、キー.ボードをピアノに変えてみたら、って云われてさ。そしたらものの見事に当たった」

「よかったね」
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