淋しいお月様
「……これから稽古なんです」

小さな声で若森くんが云った。

「稽古って、俳優かなにかの?」

「はい、舞台俳優目指してます」

「そう、頑張ってね」

「ありがとうございます」

そう言って見せてくれたスマイルは、眩しかった。

笑うと目じりが下がって、より童顔になる。

可愛い、とさえ思ってしまった。

彼はハンバーガーの包みを渡してくれる。

ありがとう、と云って立ち去ろうとした時に、また小声で囁かれた。

「今日も星羅さんに会えて嬉しかったです」

何て素敵な捨て台詞。

そんなベビースマイルで云われたら、誰だって身悶えてしまう。

私も、若森くんに会えて嬉しい――なんて、ちょっぴり思っていた。
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