淋しいお月様
私はするりと彼をかわし、テーブルの上から自分の鞄を持って、部屋から一目散に出て行った。

そして、走った。

後ろも見ずに、ひたすら走った。

息が上がったところで、私はとぼとぼと歩き出した。

若森くんが、あんなこと――。

ぶるっと身震いが出た。

怖かった――。

最初から、そういう目的で私を家に呼んだのだろう。

映画なんて、ウソばっか。

人知れず、涙が出た。

人間って、あんなに豹変するもんなんだ。

優しくて、気の利く彼だと思っていたけれど。

その実、狼だった。

悔しくて、悲しかった。
< 185 / 302 >

この作品をシェア

pagetop