淋しいお月様
「真っ直ぐここに来たの?」

「うん。ちょっくら家寄って、着替えてきて」

はっ、と私は思い出した。

セイゴさんには、立川絵里という、清純派女優の彼女がいるってこと。

立川絵里はどうしたの?

私のところへ来てて、大丈夫なの?

聞いたいことは、山ほどあった。

けれど、聞けずにいた。

このゆるやかなひと時を、かき消してしまいたくなかった。

「セイゴさん、随分飲んでるけど、また夜出かけるんじゃないの?」

セイゴさんは、地酒をあおっていた。

「今日からしばらくオフ。夜のリハもないよ」

その言葉に、なんだかほっとする。

「じゃあ、今日はずっと家に……」

私はなんだかおこがましい発言だなと思い、語尾を濁した。

すると彼は、にこっと笑い、

「しばらくはずっと一緒にいられるよ」

と、何の邪気もなしに言った。
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