淋しいお月様
立川絵里は?

彼女は女優業で忙しいから、私のところへ来るの?

私が若森くんに抱いていたような、軽い気持ちで傍にいてくれるの?

「どうしたの? じっと固まって」

私の様子に気がついてか、セイゴさんが声を飛ばしてきた。

酔った体は見せてはいなかった。

私は我に返った。

「セイゴさん、お酒強いね」

「ん? ああ。君もたいがいね」

「酒入ると、ピアノ弾きたくなるな~」

と、テーブルに指を置いて、とととん、とととん、と鍵盤を鳴らすかのように指を動かす彼。

長くて細い指。

魔法のように、テーブルで踊る。

そのリズムが心地よくて。

お酒も回ってきていて。

私は、自然と眠りに落ちてしまっていた。
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