淋しいお月様
「そうなんだ……、あれ、これなあに?」

運転席と助手席の間にあった、小さな機器を私は見つけた。

小型ラジオ……?

「あ、それボイスレコーダー」

「声を録音するの?」

「そう。運転中とか、リラックスしてると不意にメロディが浮かんだりするんだよね。それを忘れないように、歌って録音するの」

滑らかにすべりだした車は、赤信号で止まった。

「貸して」

セイゴさんがレコーダーを受け取ると、自分の口許に近づけた。

「ららら~らら、ららら~……例えばこんな風にね」

「そうなんだ。プロっぽい」

「一応プロだよ。あはは」

「そうだった。あはは」

仕事をしているひとって、素敵に見えるよね。

ミュージシャンなら、尚更。
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