淋しいお月様
「ね、いつも思うけど、そのぬいぐるみ、可愛いね」

葵ちゃんが、私がテーブルに置きっぱなしのアニエスベーの鞄を指して言う。

ホルダーのところに、ペンギンのぬいぐるみのついたキーホルダーだ。

「ああ、水族館に行った時に……」

静哉に買ってもらったものだ。

もう随分昔に買ったものだから、ペンギンの白い顔の部分はちょっと煤けてるけれど。

お気に入りと言うか、つけっぱなしだったと言うか。

今、指摘されるまでその存在を忘れていた。

いつも一緒だったのにね。

ごめんね、ペンギンちゃん。

「水族館も行ってないな~。いいな~。私も恋したい」

ユアさんが言うと、葵ちゃんが突っ込んだ。

「恋してるでしょ。タクミに」

「タクミに恋はしてるけど~、実際に水族館なんて一緒に行けないでしょ」

セイゴさんの話になると、何故か身を小さくしてしまう私。

「妄想で行けばいいじゃん」

「妄想デートはしてるよ~。ふたりで手をつないでスーパーに行って、一緒にキッチンに立ってご飯作って、お酒飲みながらまったりお家デート」

それ、ほとんど、私やってる……。などとは言えず。

今日の晩ご飯は何かな~とセイゴさんのことを思った。
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