淋しいお月様
「俺、ご飯食べたら出かけるから」

食事の最中に、彼はそういった。

「出かける……?」

いよいよ立川絵里に会いにいくのかな。

そう思うと、しょんぼりしてしまった。

「あはは。そう気落ちしないでよ。ファミレス行って、歌詞熟考してくる」

「ああ、お仕事ね」

「うるさいところだと書けないし、家でも書けないし、あんまり静か過ぎるとこでも書けないんだ。ファミレスの周りのノイズが丁度いいんだよ」

「そうなんだ。曲を作る時は?」

「スタジオ籠もるか、さすがに家に籠もるかだね。スタジオもひとがいて集中できないから、そういう時は家でやるけど」

「そんなもんなんだ……」

とりあえず、立川絵里のところへ行く気配はないと知って、ほっとしてしまう私。

「あのさ、今更だけど、携帯の番号教えてくれる?」

ほんと、“今更”だ。

いつも一緒にいるから、携帯なんてもの必要なかったのだ。

「ほら、また……怖い夢でも見たら、電話して。すぐに飛んでくるから」

その言葉にきゅんとしてしまう。

すぐに飛んでくるから。

なんて素敵な響きなんだろう。

私は陶酔してしまった。
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