淋しいお月様
だけど、セイゴさんには立川絵里という彼女がいて。

私には、静哉という彼氏がいて。

そんな状態なのに、これ以上仲良くなるなんて、ダメ。

好きなのに。

好きなのに、苦しいよ……。

「じゃ、俺、行こうかな」

その場の空気を変えるかのように、彼は言った。

「うん……気をつけてね」

「おう」

「……帰って、くるの?」

キスを拒んだ後だ。セイゴさんは気が変わってしまったかもしれない。

「10時間後には、来るよ」

とびきりの笑顔をつくって彼は言う。

私はほっと安心する。

キスなしの関係でも、傍にいてくれるのね。

傍に、いてくれる。

……いつまで?

これから先も、ずっと……?

いつかは立川絵里の元へ、帰ってしまうんじゃないか。

そんな私の不安をかき消すかのように、セイゴさんは私のあたまをくしゃっと撫でた。
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