淋しいお月様
晒し者になって恥ずかしい
「ほら、あの子よ。タクミの浮気相手」

「ああ、あの子ね。平凡じゃない」

職場へ着くなり、ひそひそ話が聞こえてきた。

ひそひそ話って、結構本人の耳に入るから不思議だ。

ランチタイムでユアさんたちといた時に、あの写真が私であることがバレた。

その休憩室に介していたひとたちから、徐々に噂が広まったのだろう。

だけど、私とセイゴさんはそんな関係じゃない。

もう、そんな関係じゃない。

私たちは、他人になったのだ。

気にすることは無い。

私は知らん顔をして、オペレーター業務の席に着いた。

インカムをセットする。

さて、今日も頑張ろう。

静哉も戻ってきたことだし。

私の未来は、明るい。

「ちょっと、業務の前にいいかしら、天野さん」

出た。

安藤女史だ。

小言が多くて、煙たがられているお局だ。

私はインカムを外し、安藤女史に向き直った。

「あなた、この間の案件なんだけど、いつも本人確認してる?」

本人確認とは、カード番号を聞き、名前、住所、電話番号を聞き、本人である了承を得ることだ。

「はい、ちゃんとしてますが……」

「このお客なんだけど」

目の前のパソコンをかちゃかちゃといじり、安藤女史はあるお客のデータを出した。
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