淋しいお月様
「お邪魔しま~す」

その夜、私は静哉の住む、会社の独身寮へとお邪魔した。

独身寮に女が入っていいものか、と静哉に尋ねたけれど、それは規則では出入り自由だということだった。

隣に住む同僚なんて、毎日女をとっかえひっかえで連れ込んでいるそうだ。

「何にも無いけど、入って」

造りは2Kだった。

リビングとベッドルーム。

私の家みたいに、モノを床に散らばせている様子もなかった。

下着とか、シャツとかの類も見られない。

きちんとクローゼットに仕舞われているのだろう。

静哉って、こんなにきちんとしてるひとだったっけ?

まあ、血液型は几帳面なA型だけれど。

キッチンも、器具が整頓されていて、シンクもぴかぴかだった。

だけど、料理をしていない、といったわけでもなさそうだ。

みりんやらお酢やら料理酒やらが、ラックに並べられていた。

「ちゃんと料理してるみたいだね」

私の言葉に、静哉はそっけなく、ああ、と言っただけだった。
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