淋しいお月様
「じゃあ、気を取り直して、はい」

セイゴさんがまた私にソフトクリームを向けた。

今度はちゃんと、口に入った。

「あま~い。つめた~い」

口の中に広がる甘さに、とろけてしまいそうだった。

「俺にも頂戴」

今度はセイゴさんが私にソフトを渡し、食べさせてあげた。

「ん~。久しぶり、この味」

「おいしいね」

「おいしいね」

私たちはまた、目を合わせて微笑み合った。

たかが遊園地で、ソフトクリーム食べてるだけで、こんな幸せな気持ちになれるとは……。

それはきっと、セイゴさんと一緒だからだね。

セイゴさんがいるから、世界が色づく。

東京へ来てから、色々淋しかったから、その代償として神様がこんな幸せな時間をくれたのだろうか。

上京したてで、友だちもいなくて、静哉とも音信不通で、毎晩公園でビールを飲んでいた、淋しかった頃の自分に言いたい。

大丈夫、その先には、幸せが待ってるよ、って。

静哉以上に、素敵なひとと、出会うよ、って。

だから、悲しまないで――。
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