淋しいお月様
ソフトクリームをふたりで食べあった後も、私たちはぼんやりとベンチに座っていた。

セイゴさんは何の乗り物にも乗ろうとしない。

そういえば、飛行機も苦手だと言っていたのを思い出す。

私も私で、別にアトラクションには興味がなかったから、ふたりでいるこの時間に浸っていた。

「ん、ん~ん、んん~」

時折セイゴさんは、何かのメロディを口ずさんでは、ボイスレコーダーをとりだして吹き込んでいる。

「それが、曲の元になるの?」

私が訪ねると、セイゴさんはごめん、と言った。

「ごめんね。こうやってリラックスしてると、ぽんぽん曲が思い浮かぶんだ。仕事しちゃってごめん」

「ん~ん、構わないわよ」

彼の隣にいられれば、それで幸せだ。

「曲の元だね。ワンフレーズ、とっかかりだよね。あとは自宅でピアノと譜面と格闘しながら、一曲を仕上げるんだ」

「そうなんだ。大変?」

「好きに歌ったり作ったりしてるんならいいんだけど、事務所からあれこれ言われたり、締め切りギリギリだったりすると、ちょっと神経ピリピリするかも」

「締め切り、あるの」

「一応ね」
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