淋しいお月様
セイゴさんはギターを横に置き、また大の字に横になった。

「あ~、楽しいな」

「うん。私も楽しい」

そう言って、私はセイゴさんの隣で、同じように寝転んだ。

「ひとりで歌うのも楽しいし、もちろんライブも楽しいんだけど、大切なひとの前で歌えるこの幸せ」

「私、大切なひと?」

「うん。世界一ね」

「宇宙一じゃないの?」

「間違えた。宇宙一」

間近にあるセイゴさんの顔。

私たちは顔を見合わせ合って、笑った。

ほんと、自分でもバカップルだと思う。

だけど、セイゴさんといると、ほんとに幸せ。

陳腐な科白も、とても大事な呪文のように思う。

遠くの方で、ピーヒョロロと鳥の鳴き声がする。

そよそよと吹く風が心地よい。

こんな穏やかな時間、大切にしたいよ。

もうすぐセイゴさんとは会えなくなってしまう。

だから、この空間を、この風を、忘れないようにしようと、私は大きく息を吸い込んだ。
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