淋しいお月様
「こんなんじゃ、いい奥さんになれないね」

ふと出た自分の言葉に、はっと赤面してしまう。

「ああ、別に、その結婚とかじゃなくて……いや、あの別にセイゴさんがどうこうじゃなくて……将来的に……」

しどろもどろになってしまう私の弁解。

これじゃあまるで、私と結婚してくれって云ってるようなもんだ。

そんな大それたこと、私が云える立場じゃない……。

だって、相手は芸能人だよ。

綺麗なひとがいっぱいいる、芸能界だよ。

私なんか庶民が、芸能人と結婚だなんて、そんな図々しいこと、云えるわけがない。

セイゴさんは、私の言葉なんか聞こえないふりをしてくれた。

「ほら、チーズ入りの卵焼き。星羅ちゃん、好きだろ」

箸で卵焼きを掴んで、私の口許に持ってきてくれる。

「ん。美味しい」

セイゴさんが知らん振りをしてくれたから、私も何も云わなかった体を保つ。

「はい、セイゴさんの好きな、ガーリック入りのからあげ」

私も同じように箸を持ち、からあげをセイゴさんの口に入れる。

「ん。美味しい」

目を見開いて、大袈裟に言うセイゴさん。

「美味しいね」

「美味しいね」

ふたり、言い合って、うふふと笑う。

こんな幸せな時間が、永遠に続けばいいのに……。
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