淋しいお月様
「ちょっと、天野さん、いいかしら?」

私服姿の派遣社員の中、現れたのはスーツ姿の女の社員さん――安藤さんだった。

「はい……?」

私は”待ち受け中”の手許の電話のボタンを押して、インカムを外した。

「このお客、覚えてるかしら?」

安藤さんは、手許の資料をもとに、私のパソコン画面に番号を入力してある顧客のデータを映し出した。

”加藤和夫”なるお客だった。

「いえ、覚えてません」

私は正直に答えた。

「いい?」

マウスを動かして、折衝記録のところへカーソルを動かした。

”当月分一括払いを分割払いへ。変更処理済み。(天野)”とあった。

どうやら先月、私が受けた電話らしかった。

「このお客様からクレームが入ったの」
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