淋しいお月様
「お月様が……見えない」

私は公園に入ると思わず独りごちた。

見上げる空は、どんよりと厚い雲に覆われていて、月はどこかに隠れてしまっていた。

やれやれ……なんて日だ。

私は肩を落としながらも、いつもの定位置、ブランコに座った。

天気予報は見ていなかった。これから雨でも降るのだろうか。

降るなら降るでいい。

いっそ、びしゃびしゃに濡れてしまって、こころの中の嫌なことを総て洗い流してもらおう。

そんな意気込みだった。

カシャッ。

プシュー……シュワワワ。

ビールは今日も快音をたてる。

月は見えなかったけれど、夜空に向かって高くビール缶をかかげ、乾杯をした。

ぐいぐい、と喉にビールを流し込む。

そして、しばらくぼんやりと天を見上げていた。
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