淋しいお月様
「あ、家、ここです」

5分ほど歩いて、私たちは自分のアパートに辿り着いた。

「解った。早くあったかい風呂に入って、寝なよ」

彼はそう言って、私にコンビニの袋を渡してくれた。

「ありがとうございました」

「うん。じゃあ」

彼はそう言うと、あっけなくも行ってしまった。

よかった、ほんとにナンパ野郎じゃなかった。

いいひとに出会った。

今日は散々な日だったけれど、最後にいいことがあった。

人間、捨てたもんじゃないな。

……また、会えるかな。

そんな淡い期待さえ抱いてしまった。

それは、決して恋心とか、親切にされたから惚れたとか、そういう意味じゃなくて。

ひとりで淋しい思いをしていたから、誰かに心配されたのが嬉しかったんだ。
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