淋しいお月様
何だか、鼻をかすめるいい香りで目が覚めた。

んん……?

目を開けると、外は真っ暗だった。

キッチンに続くドアから光が漏れていた。

誰か、いる――。

一人暮らしに慣れてしまったせいか、ひとの気配には鋭くなっていた。

まさか、静哉――?

私はどぎまぎし始めた。

私の一大事に駆けつけて来てくれたのだろうか。

重い体を上げ、毛布を身に纏いながらキッチンへと向かった。

木製のドアを開けると、柔らかないい匂いが充満していた。

「あ、起きた?」

「……セイゴさん……」

静哉ではなかった。

セイゴさんが、お鍋にお玉をかき混ぜながら私を見た。

「熱、下がった?」

そう言って彼は私のおでこに手を当てる。
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