淋しいお月様
「まだいたの」

これは嫌味ではなく、安堵の言葉だった。

「うん。これ作ったら出かける」

「こんな夜に?」

「うん」

ジュージューといい音がしているところに、私は誘われた。

靴を脱ぎ、セイゴさんの背後に立つ。

相変わらず細い肩。

「夜勤の仕事なんですか?」

「そういうわけじゃないけど……」

「セイゴさんって、自由業っていうけど、何の仕事?」

「なんだろうねえ」

間延びした声で彼ははぐらかす。

「ビール、買って来たんだけど」

「お、いいね」

「でもこれからお仕事なんでしょう?」

「軽く飲んでから行く」
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