淋しいお月様
もしかしたら、本当に呆れてるのかもしれないけれど。

「食材、買いに行ったんですか?」

「うん。机の上に鍵置いてあったから、ちゃんとかけて出かけたよ」

「そうそう、自炊するといいって、職場のひとに言われたばかりです」

ビールの缶に口をつけながら、うんうん、とセイゴさんは頷いた。

「するといいよ」

「そう、友だちができたの。その子に言われた」

私もビールに口をつける。

病み上がりで飲むビールは、また格別。

「何、友だち、いなかったの?」

「私、この春に東京に出てきたばかりで……」

「ならよかったじゃん」

「そうですね。あ、セイゴさんと出会えたのも嬉しいです」

正直に言うと、彼はあたまを掻いた。

「よかったね」

まるで他人事のように彼は言う。

「何だか、楽しいです」

「それはよかった」
< 87 / 302 >

この作品をシェア

pagetop