淋しいお月様
玄関のドアを勢い良く開けると、階段を下っていくセイゴさんの背中が見えた。

「セイゴさん!」

私の声に、彼は振り向いた。

「次は、いつ帰ってくるの?」

私の問いに、彼は笑顔で答える。

「2週間くらいだよ」

「私、待ってるから」

答える代わりに、彼は親指を立てて見せた。

そして彼の姿は階段下へと消えて行った。

キスを迫られたのには何の動揺も昂揚もなかった。

けれど、彼がいなくなってしまうことには、強い淋しさを覚えた。

これって、やっぱり私はセイゴさんを男性として意識してないってことだよね。

自覚した。

私は、淋しさを埋めてくれる誰かを欲していただけだったのだ。

静哉のいない、淋しさを、別の男性で埋めたかったのだ。

今、はっきりした。

だけど私は、静哉以外のひととは、キスもできない――。
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