お姉ちゃんの憂鬱
一番乗りで海に突入。
思っていたより水が冷たくて一瞬ひるんだが、後ろからなんか怖い顔の集団が走ってくるので止まってもいられない。
「姉ちゃん、浮き輪!」
並走していた遥香が浮き輪を渡してくれたので、足がつかなくなってきたタイミングでそれに捕まって一気に沖の方へ向かってバタ足をしてみた。
「む?」
ばちゃんばちゃんとそれはもう力を込めてバタ足してみた。
「…むむ」
…そうか、海だもんな波もあるし、波もあるし、波もあるし、そう簡単には前に進まないよな。
これは断じてあたしの水泳の能力がないとかそういうんじゃなくて、波があるからであって…
「あれれー?香奈子ったらもしかして泳げないのー?」
「そういえばかなちゃんカナヅチだったね!」
「意外な弱点発見ですね」
「確かに意外ねー。かな、運動神経いいのに」
「あっはっは!かーちゃん全然進んでねぇ!水しぶき立て過ぎだろ!」
……好き勝手言いやがって。
特に最後の山城さん笑い過ぎなんですけど!
後ろの集団に追いつかれ、囲まれ、笑われた。
そうですよ、わたし泳げないんですよ!
全然進まないんですよ!
今も正直浮き輪にしがみつくので精一杯ですよ!
これ、手ぇ離したら余裕で溺れるからね!
なんの抵抗もできずに溺れるからね!
「…誠、助けろ」
「お任せあれ!」