お姉ちゃんの憂鬱

その後、誠に引っ張られ、一度足がつくところまで引き戻され、しっかり浮き輪の上に乗せてもらってまた沖の方に向かって引っ張ってもらった。


くそう、なんて屈辱的なんだ。




「いーなーかーちゃん。犬に引っ張らせて楽するとかズルだぞ!」


「そんなこと言われたらあたしはさっきの場所から進めないわ。むしろ波に流されて後退するわ」


「お姉ちゃんは全く泳げないんですか?」


「うん。全く泳げない」


「水が怖いとかじゃなくて?」


「潜るのとかはできるけど、体が水に浮かないから泳ごうとしても水の中でもがき苦しむだけ」


「そうなんですか。僕は泳げますけどね」



そこで唐突にドヤ顔してきた直くんにチョップしようとしたが、浮き輪に乗っているせいでリーチが足りない。




「直くんはあとでチョップだな。砂浜に上がったら覚えてろよ」


「いいえ、忘れます」



覚えてろよに対してそんなに堂々と忘れます宣言する人初めて見たよ。



忘れます宣言をした直くんは沖の方にばちゃばちゃと飛沫をたてながら進んでいく。

本当に泳げるようだ。

なんかよくわからんが悔しい。





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