お姉ちゃんの憂鬱
「かなちゃん、キスしてい?」
「え、う、いや、ここ外、だし、まわり、人」
「誰も見てないよ。みんな海に夢中だから」
「でも、やっぱり、えっと…」
「堂々としていいんだよね?」
「そ、れは、そうだけど…こういう、意味じゃ、」
「ごめんね。もう待てない」
逸れることのなかった目が近づいてきて、思わずギュッと目をつぶった。
しまった、これじゃどうなってるか分からない。
そんなことを考えた次の瞬間、くちびるに柔らかい感触と潮のかおり。
ふにふにと、ただ触れるだけのキスに、なんだか既視感を覚えた。
「ふふ かなちゃん、顔が真っ赤っか」
誠の楽しそうな声に目を開けると、そこには人のことを言えないくらい顔を赤く染めた誠がいた。
「……なんか、幼稚園のときもこんなことあったような…」
「あ、覚えてる?俺とかなちゃんの記念すべき初めてのちゅう」
そうだ。
幼稚園の時、お母さんのお迎えを待っている時間、あたしと誠はいつだって二人で遊んでいて、なにがきっかけか分からないが、二人でくちびるを合わせたことがあった。
今思えば、あたしはあの時からすでに誠のことが好きだったのだろう。
あの時もくちびるを離した後には、今と同じような、真っ赤な顔の誠の笑顔があった。
「俺、決めたから。これからはもう遠慮しない。かなちゃんのこと大事にするけど、俺も我慢しない。弟でいるのやめる」
かなちゃんかなちゃんとあたしの後ろについて歩いていた男の子は、いつの間にかあたしの手をひく一人の男になっていた。