お姉ちゃんの憂鬱

まさかまさかそんな質問をされるとは思ってもみなかったので、ついつい気の抜けた声で返事をしてしまった。


「あ、あの、いや、おかしいのは分かってるんです!母親なのに自分の娘の好きな食べ物も知らないなんて、絶対におかしいですよね!でも、その…」



カゴを乗せたカートから手をはなして、あわあわと手を動かしながら話すまどか母。
その顔には自信がないですと大きく書いてある。




「まどかの好きな食べ物ですか…」


「いろいろ作ってみるんですけど、どうにも、…わからなくって。」



この様子からして、まどか母はまどかに歩み寄ろうとしているんだろうな。でもまどかが一方的に拒絶してるって感じか。ここであたしが口を出してもいいものだろうか…。


あたしの口からまどかの好物を教えることは簡単だ。はっきりと好きな食べ物は何?と聞いたことはないけれど、好みの傾向くらいは分かる。



でもこれは山城家の問題。



まどかからは「ウザい」とあからさまな拒絶もされている。
ここで関わったのがバレたら本気で嫌われるかもなぁ…



「今日も、お弁当をつくったらすごく嫌な顔をされてしまって…」

「あー、まどかママさん、ちょっとたんまです。ここじゃなんなんで、どっか座って話しません?」



ここまで関わってしまったら今更だ。もう開き直ろう。拒絶される原因となった機嫌が悪かった理由もなんとなくわかってしまったし。




< 288 / 335 >

この作品をシェア

pagetop