Love their
「看護師さんだよ」


ぼんやりと見つめるレイにタクシーの運転手がドアから降りてこちらに向かいながら言った。


手には火のついた煙草。


レイの座るベンチには座らずにすぐ傍に立ったまま煙をふかした。



どうりで、若い女性ばかりが歩いている訳だ。


今から仕事…こんな夜中から働くなんてレイにはとても考えられなかった。



「あの波が終わると1時間ほどして今度は同じように中から出て来るんだよ」


「……」


親切にレイの見つめる先を解説してくれる運転手の話を黙って聞いていた。


運転手はそういって白煙を吐いた後、煙草を持つ手を背中の後ろに回した。


「今日は風が強いなぁ…明日雨だよ、こりゃ…」


さっきまで鼻についていた煙かあまり気にならなくなった。


レイはわざわざ後ろを向きながら煙草を吸う運転手のさりげない優しさに触れた気がした。



「お姉さんはどこか具合が悪いのか?」


運転手はレイに聞くと最後の一口を大きく吸い込み吸い殼を携帯灰皿にいれて軽く指で押さえた。



「いや…ちょっと人待ちで…」


「ん、あぁ…そうかそうか…」


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