Love their
レイの斜め前3メートルくらい先を通り過ぎようとした時、


一瞬、医師と目が合った。


――――。



――――。



どれくらい無言のまま目が合っていたのだろうか。



レイがそう思った時、


医師の持つ資料が手からこぼれ落ち、その内の数枚が多方に散らばってしまった。


――大変!


レイは自分の足元に落ちてきた資料の一部を拾うと医師の元に差し出した。



「ありがとうございます。」


医師から発せられた声に引き寄せられるようにしてレイは顔を上げた。


その表情は若干困ったような、恥ずかしいかのような、それでいて笑顔だった。


レイもつられて笑顔を向ける。



「……いえ…」


レイは一言発するのがやっとで思わずとっさに顔を背けてしまった。



さっきの無言の見つめ合いに対する照れがきたのだ。


「すみませんでした」


医師はそう言い床に散らばった残りの数枚を拾い集めだした。



金しばりが身体を纏ったのごとく動けなかった。



手伝わなきゃ…。



でも動けなかった。




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