Love their
「あ……」


彼もまた一瞬驚き、目を丸くした後、笑顔を向けた。



記憶を再び色づけるこの彼の笑顔。



レイはただ呆然と立ちつくすしか出来なかった。



私の目は、彼の姿に吸い込まれそうで、


そこに立つのがやっとだった。



「こんばんわ」


「………」


「偶然ですね…仕事の帰りですか」


「………」



問いかけに声にならないレイ。



あぁ、この声。


耳に染み込むように入ってくるこの声。


同時に忘れかけていたあの日の記憶が甦る。



一瞬で貴方をもっと知りたい、分かりたい、と思ったあの日。



さっきまでの自問自答の意味は何だったのか。



やっぱり貴方を……。




「あの……」


レイは蚊の泣くような小さい声で言った。



何を言いたいのかよく分からないまま目を伏せてしまった。



見られてる、と思うと恥ずかしさが込み上げる。



駄目だ。まともに彼を見れない。



ここから逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。



駄目だ。
もう居られないっっ。
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