Love their
そのときはどれだけの時間だったのだろう。



連れがいるなら早く戻った方がいい、と掴む私の手を離し促した彼。



あのまま、時間が止まれば良かったのに。



席に戻ったレイはさっきまでの余韻に浸る間もなく注文してくれていたビールを飲む。



掴まれた腕にまだ残る感触。


思い出す度に胸がうずく。


店を出た後に、いつでも待ってると、言ってくれた彼に連絡することになった。


彼も連れがいるだろうのに、レイは申し訳ないと思いつつもその瞬間が待ち遠しかった。



でも、少し酔っていなければ、私は彼への愛しさできっと潰れてしまいそうだな、と思った。



レイはあまり進んでいなかった料理に手当たり次第、箸をつけてビールで流した。


胸の鼓動が止まらない。


店内にはかなりの大音量でジャズが流れている。


満員の声にやっとで耳に届く音が鼓動と共にリズムする。


「三村、次行くけど、どうする?」


店員が運んで来た追加のビールをヒョイと掴んで同僚が口に唐揚げを挟みながら言った。


「あ…私、今日はいいや…」


「あ、そう。飲んだお前が乗ってこないって珍しいな〜」


「うん、今日はね…」


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