堕ちてくる
「返して下さい。」
葉月は携帯を取り返そうと必死だ。しかし、身長の低い葉月は、背の高い男達を前にいいように弄ばれている。
一瞬、周りを見て、助けを請おうとするが、誰も彼も見て見ぬふりだ。ひとりで男達を相手にするしか、葉月にはなかった。
着メロが、いつまでも悲しくなっていた。

今度は、剛田がいつまでも呼び出し音を聞く番だ。こういう時の呼び出し音は、永遠とも思えるくらいに長く感じる。剛田も今、永遠と戦っていた。
「早く、早く・・・電話に出てくれ・・・。」

聞き覚えのある音が聞こえた。その音に、葉月は恐怖した。
―――いけない。
そう思うよりも先に、男達は頭から血を吹き出していた。そして、足の裏に伝わる衝撃。さっきの教頭の姿と重なった。葉月は気分が悪くなった。
―――拳ちゃん。
鳴り続ける携帯を手に取り、震える指でボタンを押した。
「もしもし？もしもし、拳ちゃん。」
「葉月か？大丈夫か？」
「私は大丈夫。だけど・・・。」
「だけど？」
葉月は、目の前に拡がっている光景を、もう一度見てしまった。呼吸がどんどん速くなる。そして、声を出す事が出来なくなった。
「どうした？どうした？葉月。」
答えがない。ただ、電話に繁華街特有の雑踏が聞こえている。
―――ここら辺の繁華街と言えば、あそこしかない。
剛田は、急いで車を走らせた。
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表紙・目次

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