誰もしらない世界
玄関へ入ると杉浦がキッチンでたばこをふかしていた。

杉浦は歩に気がつきタオルを差し出した。

そして、背を向け歩に一言声をかけた。

杉浦(気がつけばいつからか、お前の事を好きになっていたのかもしれない。)

そう言い、杉浦は背をむけ遠くを見つめていた。

歩(…信じていいのね…)

杉浦(あぁ。)

杉浦は歩の方を決して振り向かずに返事をした。

歩(…嬉しい。)

そう言って歩はまた涙ぐんでグシャグシャになった服と髪をタオルでふいた。

杉浦(風呂でも入ってこいよ。)

歩(うん。)

歩を浴室へ向かわせたのを確認した杉浦の顔は凍りついていた。

また歩に嘘をついていた。

杉浦は愛なんて言葉を決して信じることはなかった。
そんな事も歩はわからないまま、また杉浦を信じきっていた。

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