誰もしらない世界
翌日、いつものように自宅を出て歩は仕事へ向かう。

更衣室は歩の予想通りメチャクチャになっていた。ドレスは切り刻まれてゴミ箱へ入っている。

はぁ…
歩はため息をつく。
また、れいかさんの嫌がらせか…幼稚な嫌がらせもあろうかと歩は予めドレスを持参してきたのだ。どうせ店の中でも嫌がらせをしてくるに違いない。そう思った。
案の定、開店時間になると執拗にれいかの嫌がらせは起こる。

黒服がいつもはつけないようなれいかの席へと歩を付ける。

歩(失礼します。)

客(お、きたきた!)
客はやたらとニヤニヤしていた。

歩(私の顔になにかついてますか?)

客(はは…何かって全部作りものだろう、君?ははは!しかもやらせてくれるんでしょ?)

そんなふうに下品に歩を、罵る。
れいかの嫌がらせだった。

歩は、いつもは客に媚びを売るが客に言い返す。
歩(はーん?そんなこと言うためにお金払ってるなんて、さぞかしあの馬鹿女の金ヅルなんですね?ご自分の事をもっと客観的にみたらどうですか?)

客(なんだとテメェ!)
そう言い、歩の胸ぐらを掴みにかかる。
すると、杉浦が現れ、れいかの客をどつく。

杉浦(男が女いじめてんじゃねーよ。みっともねー。この女の言うことはあながちまちがってない。お前ら馬鹿は、あの馬鹿女に使われてるだけだ。)

そう言い、VIP へと杉浦が、向かう。

男は掴みに掛かる。
男(あ?テメーに何がわかんだよ。人殺し。)

杉浦(ケンカなら外でやりましょう。)

そう言い、杉浦は男を外につまみ出した。
一本電話をかける。

杉浦(もしもし、後は頼んだから。)

そう言い、杉浦はVIPへと向かう。
店内は一瞬静まりかえるがまたにぎやかさを取り戻す。

歩はそのまま杉浦の席へと付く。
少し気まずいが、静かに水割りを作る。

歩(あの…杉浦さんって何者なんですか?)

杉浦(さぁね。)

歩は気になりながらも別の会話に切り替える。

歩(あの、斉藤さんって杉浦さんの知り合いなんですか…?)

杉浦は沈黙をしばらく続けた後、重い口を開く。

杉浦(あいつは、人殺しだ。)

…歩は固まった。
なんとなく、わかっていた事を淡々と話す杉浦に歩は驚きと恐怖を隠せない。

歩(そっか…)

そう黙りこむと杉浦は突拍子もなく、歩に話しかけはじめる。
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