誰もしらない世界
VIPルームへ向かい、歩はいつもの様子を装おう。

歩(失礼します)

そう言い、杉浦の隣にすわる。
相変わらず、杉浦はよくわからないやつだった。突拍子もなく、歩に指名がえをしたかと思えば、特に大した会話もしないのに、高級ワインを入れているからだ。それは、今日もかわらなかった。そして、会話といえば、歩の現状を聞くばかりだった。

杉浦(最近はどうなんだ)

歩は心のうちを読まれたみたいでビクッとする。

歩(なにもないです。特に何も…)

そう言って平然を装おう。
しかし、その様子は杉浦には読まれていた。

杉浦(今の生活の解決を、したいのなら手を貸してあげてもいい 。ただし、条件がある。)

歩はごくりと唾をのむ。

歩(条件って…)

杉浦(簡単なことだ。お前は俺の言うことをきいておけばこれから先も、金に不自由することはない。)

歩は黙りこんで考える。
すると杉浦が何かを書きはじめる。

今夜杉浦が、宿泊するホテルのルーム番号を渡された。
そしてすぐ杉浦が店の黒服にチェックを告げる。
歩は杉浦を、送りに店前まででた。
帰り際、杉浦は一言だけこう言った。

杉浦(俺に不可能なことはない。)

そう言い、杉浦は背を向け夜の町へと消えていった。
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