誰もしらない世界
ある日、れいかが百貨店に買い物に出掛けた時の事だった。
偶然、百貨店の地下の食品売り場でオカメと出会うことになる。

青いエプロン姿と少し鬱陶しく伸びたボブカット姿でオカメは食品を無言で棚に並べている。

れいか(すいません、サランラップどこにおいてありますか?)

そう話しかけるとオカメが振り向く。
れいかはどこかで見たことのある顔だと気がつきオカメに話しかける。

れいか(あれ、あなた斉藤さんをいつもお迎えに来てた…)

オカメ(あ!れいかさん。お久し振りです。)

オカメはびっくりした様子で答えた。
れいかとオカメは以前から斉藤がれいかの店に飲みにくる時には必ずいつも車で斉藤の迎えに来るためよく面識があった。

れいか(久しぶりじゃない!こんなとこでバイトしてたのね!てっきり、まだ危ない所でアルバイトしているのかと思ってたわ。)

オカメ(は、はは…)
オカメは気まずそうに苦笑いを浮かべる。
斉藤の紹介でSMクラブにいれられたまま、気が弱いオカメは店にやめるという意志を伝えられずにいたのだ。

ふいにれいかはオカメの腕の方に目を向ける。

れいか(あれ、腕どうしたの?ここも、そこも青あざだらけじゃない。)
手首と二の腕あたりがSMクラブで叩かれてみみず腫れになり、アザになっていた。

れいかはすぐにオカメがまだSMクラブで働いていると気がつく。

れいか(もしかして…まだやめてないの?)
オカメは途端に黙り混む。
さすがのれいかも客としては斉藤を手厚く扱っていたが、時折酔っぱらったときに斉藤が言う誰かを陥れて私生活を送っているという自慢気な発言から斉藤の性格の酷さを見抜いていた。さすがのれいかもこの時ばかりは同情した。

れいか(オカメちゃん、自分をもっと大事にしなきゃだめぢゃない。あなた可愛いんだから。)

可愛いという言葉にオカメは耳を疑う。
今まで誉められた事のないオカメに可愛いと声をかけたのはれいかが初めてだった。
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