社長に求愛されました
「ねぇ、高瀬」
「はいぃ……」
「もしもこのまま急性アルコール中毒でなにかあった場合、誰かに何か言っておきたかったなぁって事ない?」
「……私、やっぱり死ぬんですか」
「もしもよ。もしもの話。私が暇だから暇つぶしで聞いてるだけ」
「暇つぶしの話題が物騒すぎます……」
「いいじゃない。それに高瀬、これくらい弱ってないと本音言わなそうだし」
今のちえりは酔っているせいか弱っているせいか、ネジが緩んでいるようでやけに素直だ。
いつもの意地っ張りさも頑固さもきれいに抜けている。
だから、今だったらいつも隠しっぱなしの素直な気持ちを口にするんじゃないかと思っての質問だった。
ちえりは胃痛とふわふわした気分の狭間で揺れながら、綾子の言葉に目を閉じたまま答える。
「遺言は……弟に残します。ひとりにしてごめんねって……。
お姉ちゃんなのに、守れなくて、ごめんねって……」
「……そう」
「あと、おばさんとおじさんに、ありがとうって……。お葬式はお金かけないでいいって。
私の保険金、潰れかけてるお弁当屋さんの経営にあててって」
「……そう」
篤紀との事で口を割ったらおもしろい。
そんな風に思いぶつけてみた質問だったが、返ってくる答えが悲しいものばかりで、綾子がこれじゃあ可哀想だと質問を取り下げようとした時。
ちえりが「あと……」と呟くように言った。