社長に求愛されました
「はいはい。もうなんでも聞くわよ。何?」
「あと……社長に、好きになってくれてありがとうございましたって。
社長のおかげで幸せだったから、社長も幸せになってくださいって……伝えてください」
胃痛に襲われて、速い呼吸を繰り返しながら言うちえりのおでこの汗を、綾子が持っていたタオルで拭う。
「好きだとは、伝えなくていいの?」
綾子の優しい声色に、ちえりは瞳を少しだけ開けて綾子を見た。
ぼんやりとした視界に、綾子の微笑みが映る。
「だって……もしも死んじゃったらの話だから」
「死んじゃったらの話だからこそ、伝えちゃってもいいんじゃないの?」
「でも……死んじゃう私に、繋ぎ止めるなんて……社長を不幸にするだけですから。
生きてても死んじゃっても社長を不幸にしかできないなんて……悲しすぎます」
「……でもそれじゃあ高瀬の気持ちはどうなるの? 誰にも知られないままなんて死ぬに死にきれないわよ」
眉を寄せる綾子に、ちえりが微笑む。
その表情は、儚いという言葉がぴったり合うものだった。
「じゃあ……綾子さんが知っててください。
私が社長を好きだって……大好きだって、知っててくれたら、私はそれでいいです。
私は、ジュリエットみたいに好きって気持ちだけで走るのは……無理ですから」
「……でも、社長はロミオじゃないわよ」
「私にとっては、王子様なんです。たったひとりの――」