社長に求愛されました
「なに驚いてんだよ」
「いえ……。ご自分で本人の口から聞きたいとおっしゃるかと思ってたので」
綾子の言葉に、篤紀は目を伏せてちえりに視線を移した。
そして、ちえりをじっと見つめながら「できるなら、俺だってそうしたいけどな」と呟くようにして言い、ため息を落とした。
「でも、こいつは絶対に言わないからな。
意地っ張りだし、頑固だし、人を頼ろうとしないし、すぐ無理する。
頼らせたければ強引に腹割らせて頼らせるしかねぇし、無理させたくないなら、その前に止めなきゃダメだ」
ちえりの欠点ともいえる部分を上げた篤紀は、ため息をつきながらも、愛しそうな瞳でちえりを見つめていた。
まったくこいつは、とでも聞こえてきそうな篤紀の柔らかい表情に、綾子も同じように微笑む。
「正直、井上から教えてもらうなんて情けないし、プライドがないだとかそういう話にもなるのかもしれないけど。
でも、ちえりを守るためなら俺のプライドだとかそんなんどうでもいい。
こいつが笑ってられればそれでいい」
先ほどよりもちえりの呼吸のテンポが落ちているところを見ると、多少胃痛は軽減されたのかもしれない。