社長に求愛されました
反論する間も与えずに続ける綾子に、ちえりが困り顔で笑みをこぼす。
それから、やっと与えられた沈黙に静かに言葉を落とした。
「もしかして、社長と私が付き合うかどうかを、会社の誰かと賭けてますか?」
綾子は二回ほど目をパチパチとさせてから、呆れ顔をする。
心外だわとでも言いたそうな顔だ。
「私がそんな女に見える?」
「やっぱり賭けてるんじゃないですか……。綾子さん、嘘つくの上手じゃないからすぐ分かります」
むっと口を尖らせるちえりに、綾子はバツが悪そうにするでもなく、悪びれなく笑った。
「バレたか。だって異動とかいうから、それまでにくっつくかどうかで下田さんたちと賭けてるのよ。
でもひとつ言っておくけど、私が賭けてるのは、くっつかない方よ」
「え……じゃあなんで私の背中押すような事ずっと言ってるんですか? 私がその通り行動に移したら綾子さん負けちゃうじゃないですか」
負けない賭けはしないくせに。
そんな風にちえりが言うと、綾子は苦笑いを浮かべてちえりを見た。