社長に求愛されました


「違うでしょ?! なにが、そうですねよ!
高瀬は自分のためじゃなくて、社長のために我慢してるんじゃない!」

ちえりが篤紀の気持ちに応えないのは、篤紀が嫌な思いをしないためであって自分がそういう目に遭わされないためではない。
恐らく篤紀が恐ろしく鈍い男で、何にたいしても気づかないし傷つかない男だったらきっと、ちえりは篤紀の気持ちに応えたハズだ。
嫌な思いをするのが自分だけだったら、きっと。

「こんだけ言ってるのに……なんで無理して笑って全部を飲みこんじゃうのよ。
高瀬がそんなだから、放っておけないのよ。
……賭けに負けてでも、世話焼きたくなっちゃうのよ」
「綾子さん……?」
「ちゃんと言いなさいよ。本当の気持ち……。
今日聞いた事は、社長にも誰にも黙っててあげるから。
吐き出さないでずっと持ってたってツラいだけでしょ」

賭け事が好きな綾子の事だからと、やけに篤紀との事を聞き出してくる態度をついつい邪推していたちえりだったのだが。
今日の綾子の様子を見て、それは間違いだったのかと気づく。

綾子はただ単に心配して気にかけて、本心から応援していてくれたのだと。



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